デパートクレーム体験記

[第二話] ゴム印はナイスアイディアですが

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前回の竹下さん対応のあと賞賛の声があがった。
「冷静に対応してましたね、さすがです」
「橋本君じゃなきゃ、あ~はいかなかったよ」

どこが冷静なもんか、ちっとも冷静になんて対応できていない。
その証拠に、品名記入がまともにできないほどビビッていたではないか。
なので、その絶賛の声のウラに「その手の顧客がきたら、橋本に全部やらそう」って魂胆があるな、と私は踏んでいた。
よって、そんな声などまともに受け取らなかったし、ましてや、思いあがることもなかった。

しかし、そんな流れには抗えないもので、その後、私はまるで「そんな稼業の人達の担当の如く」になっていくのである。
そもそも、社員のギフトセンター受注時における主たる役割はトラブル対応である。
なんとなれば、受注者のほとんどがアルバイトの方達であるから。
なので、社員はトラブルの大小に関わらず、積極的にトラブルが発生すれば関与しその解決につとめねばならない。

また、それより前に「ちょっと癖のありそうな顧客だなぁ」と思えば、バイトの方達に伺わせるのではなく、自ら積極的に伺うことによりトラブルを未然に防ぐことも必要となる。
これらすべて、社員の等しい役割である。

しかし、くせのありそうな顧客が来られた時、「これは、橋本にやらせよっ」って雰囲気に他の社員全員なってしまうのである。
で、斯様な流れが出来つつあったある日、いかにもそれらしい方2名さんを含む4名さんがギフトセンターにやってこられた。
その、それらしい方2名さんは、前回の竹下さんより役職も迫力も、もっと上のおふたりだったのである。

その稼業の方達は、それなりの雰囲気をもたれている。
なので、その4名の方々を一見した社員は全員「ん?これは・・・」と思ったはずである。
そして、当然バイトさん達に任せるわけにはいかないので、“社員の誰か”が接客しなければと思う。
しかし、本音を言えば、その“社員の誰か”は自分でありたくないと願う。
で、ここに社員間の色んな駆け引きが生まれるのである。

ある者は、普段あまり積極的に接客しないのに、急に一般のお客様の接客したり。
ある者は、その方達と「遠く対角になる」位置取りをしたり。
ある者は、「あっ、そうだ!」みたいな振りをして裏方に消えたり。

かく言う私、そりゃ避けれるものなら避けたい。
皆が感じてるように、怖いし、何かミスでも起きようものなら矢面に立たねばならない。
そんな事態、想像するだけでも身が凍る思いだ。
が、しかし、逃げ回る連中を見ると情けなくなり腹ただしくもあり「そんなに逃げ回らんでもええわい、わしがやるよ、わしが!」となる。
で、結局、今回の4名1組様は私がお伺いすることになる。

その4名さんは、広島にある総本山の高役職の方2名さん、そのお付の方1名さん、及び高役職の方の一方の奥さまである。
「迫力がある」と記したのは高役職の方2名さんで、お付の方は感じが良く愛想のいい方、奥様はそれこそ普通の雰囲気の奥様であった。

さて、ギフトセンターの受注スペースには、カウンター席と4名~6名程度座れるテーブル席が配置されている。
テーブル席には、3名を超える家族連れの顧客を中心に案内するが、他の顧客となるべく隣接しない方が好ましいと思われる方も案内する。
で、件の4名さんはどちらにも当てはまるのでテーブル席へご案内。
いよいよ、受注手続きを始めることになる。

あくまでも通常の顧客と同じよう手続きを進める。
私の精神状態もいたって普通である。
であったと思う。たぶん。

お届け先も威圧感ある組織名と役職名つきであるが、ご指定の商品名を記入し受注作業自体はスムーズに。
その間、4名さんとも静かにお待ちになり、入金手続きまで恙無く終えたあとも静かに会場を後にされた。
とりあえずめふぅ、と一息である。

最終的には、商品手配・配送伝票の誤字脱字の確認から始まり無事お届け完了まで終えることになったのである。
問題は、次回の中元歳暮もまた引き続きご利用されるか否かである。
なにしろ、この4名様は今回始めてのご利用である。
特に何の問題もなく処理できたわけではあるが、やはり受注には気を遣うし、その後の配達完了まで気が抜けない。
できれは、受けたくないのが本音ではある。

しかし、次のギフトセンターへも引き続き4名さんでご来店になり、同様に私が対応。
そして、3回目のご来店ではご指名をいただくまでになっていたのである。(いち販売員としては光栄であるが、この場合、喜んでいいような悪いような・・・)

そして、回を重ねて4回目のご来店。
いつもどおりお届け先リストを預かり、商品確認をしようとしていたら、高役職のおひとりがセカンドバックをゴソゴソ。と、しながら、「橋本さん、ええの作ってきたんじゃ」とおっしゃる。
ん?
と、その方の手元を見るとゴム印らしきものが握られている。
それは「のし」の下の部分に送り主の名前を書く手間を省く為に、わざわざ作って来られたゴム印なのであった。
ちゃんと縦書きになっており、組織名、肩書きまでしっかり彫られていた。

「いっつも、橋本さんに手間かけとるけぇの、ええの作ってきたんよ」とおっしゃる。
(が、私がのし“名いれ”などするわけなく、いつも総務在籍の書道何段かの方に書いていただいている)
「ちょっと、インクの奴持って来て~や」
(ん?スタンプ台のことだな?)
(「のし」も要るな。え~と、この商品だと7号でいいか、で12枚だな)

この4名さん接客の時、いつも傍らに待機している若手にそれらを頼む。
そして、彼が持ってきた「のし」とスタンプ台を顧客の前に差し出しす。
スタンプ台にゴム印をポンポンし、慎重に「のし」の名いれ部分にゴム印を押し付ける。
じわ~っとゴム印を離すと、そこには鮮明に「組織名、肩書き、お名前」が・・・。
「どうや、ええじゃろ」と満足そうに前主。
「いいっすね~」と私。
その後、残りを上機嫌で仕上げていかれた。

それは、それで良いのだが、問題は「のし」に押印後の処理である。
その方は、インクを乾かそうと、その「のし」(組織名、肩書きがばっちり押印された)を受注テーブル狭しと広げていくのである。
最終的に12枚すべて。

ん?他のお客さんに見えてまずくない?
と思ったものの、インクを乾かそうとする行為は自然な行為である。
他のお客様に見えない様、裏返す?
いや、裏返すことは、乾かすと言う目的とは相容れない行為になるのでそれもできない。
なので、しばらくは放置することにした。

とは言いながら、受注手続きの方をすすめながらも、他のお客様の事が気にかかる。なんせ、ギフトセンターの混雑ぶりはご存知のとおり。
次から次へと一般のお客様が私たちのテーブルの傍らを通り過ぎていくのである。
それに気付いたお客様は「ぎょ!?」という表情になる。

そりゃそうだ、「のし」に印字されている組織名は広島人なら誰でも知っている組織名。さらに、その組織名の下には威圧感ある肩書きまで印字されているのだから。
そうこうしているうちに、ギフトセンター全体が不穏な空気に包まていくのを感じる。
やっぱ、まずい。
こりゃ、早く回収しなくちゃ。
と言うことで、「早すぎるかな?」と思ったものの「も、大丈夫ですね!」とボソッと言って、そそくさと問題の「のし」を重ねて回収、ほっとひと息ついたのである。

ま、そんなこんなで今回の受注も、一般のお客様には少しご不安感を与えてしまったかもしれないがなんとか無事終了。
しかし、この4名さんの来店はこの「ゴム印ご持参」の回が最後となる。
そう、それは、ちょうどバブルが弾けた頃。
あの方たちの稼業にも不景気風が吹いたか否かは知る由もない。



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