楽しいテニス合宿のはずが

[第三話] 三瓶山3周事件

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車酔いで顔面蒼白になった彼女。
「大丈夫?」と聞いたが、大丈夫なわけがない。
その問いに答える間もなく、「うっ」と嘔吐の前兆。
「外へ出て涼しい風にあたろうか」と言う間もなく、彼女自ら車外へ。
同乗の他の女子社員も追って車外へ。
若い女性の嘔吐の場面にいない方がよいと思った私は、彼女達に介抱は任せ車内で待つことにした。

待つこといかほどだったか、今は思い出せない。
ただ、顔色が優れぬまま、「すいません、もう大丈夫です」と力ない声で車内にもどってきた彼女を見て、罪悪感に苛まれたことだけはしっかり覚えている。
さて、困った。
これからどうしたものか。

と考えたところで、いまだ車幅ぎりぎりの細い道の上、前へ進むしかない。
えいや、もう一回振り出しに戻る覚悟で車を走らせる。

で、3度目、見なれた看板のところに到着。
さぁ、今度こそ慎重に行かねばならない。
絶対に細い道に魅入られるように入ってはならない。
と、自身にしっかり言い聞かせ、ゆっくりとスタートを切る。
しばらくは、勝手知ったるお馴染みの道だ。

と、目の前に車が止まっているのを発見。
「地獄に仏」とはこの事か、と思いながら近づいていく。
で、近づいたはいいが、その車は暴走族仕様のシャコタン車。
「ドドドドドドドド」と聞こえるアイドリング音。
普通なら、そんな車に乗っている人に声かけるなんて無茶な事はしない。

が、この状況ではそんな事も言ってられない。
車を止めて、何の躊躇もなく宿への道を聞きに行く。
車中には、車の外観にお似合いのお兄さんが二人。
が、その風貌に怯むことなく「道に迷って宿にたどり着けない」旨を正直に言って道を聞く。
幸い、このお二人は地元の方達だったようで、まことに親切に道を教えていただいたのである。

さぁ、これでもう大丈夫。
隣の車酔いの彼女の顔色にも、心なしか朱が混じったような・・・。
で、教えてもらった道は、何のことはない広い道を素直に道なりに行けばいいだけ。
なぜ、横道にそれてしまったのかはもう考えるまい。(私は何気に左に曲がるクセがあるにはあるが)

一目散に宿へと車を走らせる。
そして、しばらく車を走らせるとやっとこさ宿に到着。
急いでみんなが待つ部屋に入ると、先着の連中から「橋本さんひとりで何ええことしよるん」とか「3人連れて別のとこへトンズラしたか思うたわ」とか、こっちの気も知らずに言いたい放題。

ま、新入社員を含めての楽しいはずの宴会スタートが9時からのはずが11時からと2時間以上遅れたわけなので、それもむべなるかな、ではあった。

そして、後に、この事件は「橋本の三瓶山3周事件」と誇張されて店内に広まり、私の方向音痴ぶりが店内に知れ渡る事になるのである。

完。



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