[第四話] 阪神電車であわやの
大学も卒業で広島に帰ることになるので、最後の観戦となった甲子園。
なのに、負け試合にげんなりしながら乗った阪神電車の中。
上りにくらべ下りは混んでるとは言え適度な空間を保っている。
車内はほとんどが観戦帰りの阪神ファンなのは言うまでもない。
阪神ファンの皆は勝ち試合に機嫌よく、負けた私らは口数少なく目的の駅まで静かに乗っていたのだが、しばらくして「捨て置けぬ」状況を目にすることになる。
少し離れたところで、阪神ファン数名がドア側で外の景色を見ながら佇む広島ファンのカップルに対し嫌味を言っているのだ。
それは大声と言うほどではなかったのですべてが聞こえたわけではないが、「いくら応援したって弱いんやからムダムダ」とか「負け試合なのにご苦労さんやなぁ」みたいなことを。
そのカープファンは車窓を向いてるわけで、背中に向けて阪神ファンが心無い言葉を投げかけてる格好になっている。
言われ放題で丸まった背中になってる二人を見てると徐々に怒りがこみ上げてくるし、助けなきゃと思う。
しかし、ここは阪神ファンだらけの車内。
やっぱ、やめとこ。
と思ったはずなのだが、思いと裏腹に「たいがいにしとけよ、おまえら!」の言葉が口をついて出てしまっていたのである。
声をかけた連中たちと車内のほとんどの乗客も声のした方、つまり私の方を向く。
「なんや、わしゃ悪うないで」の表情を返したが、徐々に我にかえりはじめる。
連れ達も「おまえ、こんなところで何てこと言うんや」みたいな迷惑顔で私を見る。
そりゃそうだ、ここは逃げ場のない電車の中ではないか。
「しもうた」と思ったがもう遅い。
何か言うてきたら、どう返すか?と、切り返す言葉を考える。
それとも、いきなり胸倉でも掴まれたらどうする。
が、しばらくしてもなんの動きもない。
嫌味を言ってた連中もあれからおし黙ったままだ。
「助かった?」と思いながらさらに待つ。
やはり動きはないまま、車内に先ほどまでのざわつきが戻っていく。
「助かった」
と、ホッとするが目的の駅までまだ30分以上はある。
このままの状態でそんな長い時間を過ごすのはいたたまれない。
次の駅で降りて一本あとの電車に乗り換えようか?
いや、すぐに降りたら逃げたように思われるしそれも悔しい。
じゃ、ふたつみっつ先の駅で降りようか?
どうしよう、どうすればいい?
と思いめぐらせながらも、ジッとつり革につかまり、目的の駅まで冷や汗が冷めた背中で夜の車窓を静かに眺めていたのである。

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上りにくらべ下りは混んでるとは言え適度な空間を保っている。
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阪神ファンの皆は勝ち試合に機嫌よく、負けた私らは口数少なく目的の駅まで静かに乗っていたのだが、しばらくして「捨て置けぬ」状況を目にすることになる。
少し離れたところで、阪神ファン数名がドア側で外の景色を見ながら佇む広島ファンのカップルに対し嫌味を言っているのだ。
それは大声と言うほどではなかったのですべてが聞こえたわけではないが、「いくら応援したって弱いんやからムダムダ」とか「負け試合なのにご苦労さんやなぁ」みたいなことを。
そのカープファンは車窓を向いてるわけで、背中に向けて阪神ファンが心無い言葉を投げかけてる格好になっている。
言われ放題で丸まった背中になってる二人を見てると徐々に怒りがこみ上げてくるし、助けなきゃと思う。
しかし、ここは阪神ファンだらけの車内。
やっぱ、やめとこ。
と思ったはずなのだが、思いと裏腹に「たいがいにしとけよ、おまえら!」の言葉が口をついて出てしまっていたのである。
声をかけた連中たちと車内のほとんどの乗客も声のした方、つまり私の方を向く。
「なんや、わしゃ悪うないで」の表情を返したが、徐々に我にかえりはじめる。
連れ達も「おまえ、こんなところで何てこと言うんや」みたいな迷惑顔で私を見る。
そりゃそうだ、ここは逃げ場のない電車の中ではないか。
「しもうた」と思ったがもう遅い。
何か言うてきたら、どう返すか?と、切り返す言葉を考える。
それとも、いきなり胸倉でも掴まれたらどうする。
が、しばらくしてもなんの動きもない。
嫌味を言ってた連中もあれからおし黙ったままだ。
「助かった?」と思いながらさらに待つ。
やはり動きはないまま、車内に先ほどまでのざわつきが戻っていく。
「助かった」
と、ホッとするが目的の駅までまだ30分以上はある。
このままの状態でそんな長い時間を過ごすのはいたたまれない。
次の駅で降りて一本あとの電車に乗り換えようか?
いや、すぐに降りたら逃げたように思われるしそれも悔しい。
じゃ、ふたつみっつ先の駅で降りようか?
どうしよう、どうすればいい?
と思いめぐらせながらも、ジッとつり革につかまり、目的の駅まで冷や汗が冷めた背中で夜の車窓を静かに眺めていたのである。

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